映画『英国王のスピーチ』が描く友情

 英国王・ジョージ五世の吃音(きつ)症の第二王子、後のジョージ六世と、平民の言語聴覚士ライオネル・ローグの友情を描く、史実に基づいた映画『英国王のスピーチ』を見た。

 王子の吃音症はひどく、人前で話すと緊張で話が中断するほどだった。何人もの医師の治療を受けたが改善せず、王子は諦めかける。だが、妻は一人でライオネルを訪ねた。

 ライオネルは、王子を愛称の「バーティ」と呼び、自身を「ライオネル」と呼ばせて、対等の関係にこだわる。戦地で戦後神経症に苦しむ元兵士を治療した経験から、吃音症は精神的なストレスが原因なので、対等な友人として寄り添ってこそ、初めて治療ができるという信念を持っていたからだ。基礎訓練を積み重ねるうち、僅かながらも望みが出てきた。王子はやがて幼少時の乳母の虐待などについて打ち明けるまでになり、二人の間に少しずつ友情が芽生えていく。

 王子の兄は、愛する女性が王室に受け入れられず、王位即位後、一年を待たずに退位してしまった。こうして慌ただしく国王に即位することになった王子は、戴冠式にライオネルを呼んで乗り切る。

 国王になってまもなく、全国民に対して、第二次世界大戦の宣戦布告と士気を奮い立たせるためのラジオスピーチを行うことになった。初めての本格的なスピーチだ。ライオネルは不安に駆られる国王を励まし、国王はみごとにやってのけた。放送室から宮殿のバルコニーに出て、待ち構える大衆に手を振る国王の姿。ライオネルはそれを満足げに見守る。

 国王即位直後、妻の前で「私は国王ではない」と泣くなど、国王といえども一人の弱い人間だと感じさせる場面が何度も出てきた。国王の妻が存命中は、治療記録の公開を拒んだというのもうなずける。しかし、ジョージ六世の英国への使命感は強い。その国王を支えるライオネルとの真摯な深い友情に心を打たれた。宣戦布告時のスピーチを終え、ライオネルが「とてもよかった」「でも〝W〞でつっかえたな」と言うと、国王は「わざとさ。私だとわかるように」とユーモアで返す場面もいい。英国の静かな気品が随所に描かれ、心地よい印象が残った。